公法学

プライバシー権

フランスではデモで顔を隠すと罰則 ~民主主義とプライバシー


髙作正博先生

関西大学 法学部 法学政治学科(法学研究科 法学政治学専攻)

出会いの一冊

民主主義って本当に最良のルールなのか、世界をまわって考えた

朝日新聞「カオスの深淵」取材班(東洋経済新報社)

わかっているようで実はよくわからない、そんな民主主義について考えるきっかけとなる本です。この本の良いところは、「答えを示すのがねらい」ではなく、「問いを立てる」章立てとなっている点です。「選挙で選んだんだから、その人の判断に従うことが当たり前だ」、「多数決で決めたんだから従え」、そんな民主主義の「常識」を疑うところから議論は始まります。それを考えるための世界中の事例が豊富に盛り込まれています。考える「出発点」!お試しください。

こんな研究で世界を変えよう!

フランスではデモで顔を隠すと罰則 ~民主主義とプライバシー

私生活をみだりに公開されない権利

プライバシーの権利は、「私事」(私生活)をみだりに公開されない権利を意味します。この権利により、「私事」は周囲の目にさらされることなく、秘密を維持できる空間となります。

これは、政治の問題(「公事」)について公の場で意見を言い合い、議論を重ねていく民主主義の空間(「公共圏」)とは異なる次元のものと考えられてきました。私の問題関心は、プライバシーの権利を民主主義と密接に関連のある権利として、再構成しようとするものです。

行動や容姿の「私事」は民主主義にも必要

次のような裁判例があります。政治目的の集会に参加する人々を、警察官が道路上で監視したりビデオで撮影したりして、集会自体を妨害しようとした事件です。このようなことがあると、集会に参加したり自由に意見を述べたりすることが難しくなります。

そこで、人の行動や容姿等の「私事」を民主主義にとっても必要な要素と捉え、プライバシーの権利をより豊かな権利として位置づけなおすことが大切なのです。

フランスの法律は政治行動を委縮させる

以上の視点は、外国の最近の事例を分析する際にも役立ちます。フランスで2019年4月10日に制定された法律は、公道上のデモの際に正当な理由なく顔の全部又は一部を隠した者を、刑事罰に処することとしました。

顔をさらさなければ表現行為をすることができないというのは、積極的な政治行動を委縮させ、健全な民主主義を阻害するものです。再構成されたプライバシーの権利は、このような法律に新しい光を当てることになるでしょう。

SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

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この研究は、自由と安全の両立を目指し、人権保障と民主主義に基づく効果的なガバナンスの確立に貢献しようとするものです。通常、自由と安全とは、二者択一のように考えがちですが、それは違います。安全を維持しながら自由を最大限保障することこそを、追求すべきでしょう。

そのためには、例えば単純に防犯カメラを設置・増設するのではなく、どのような趣旨・目的で何をどのように行うのか、防犯カメラの設置がやむを得ないとしてもその管理権限を誰が持ち、データ利用の手続や削除の期限をどうするかなど、具体的なルールを定めておくことが必要です。日本のように法律や条例も存在せず、本人の気づかないところで個人情報が取得収集され利用される、ということでは、安全な社会とは言えません。自由に意見を言い合うためにも、プライバシーの保護が必要となるのです。

先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「民主主義におけるプライバシー権と『公共圏』の規範理論」

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どこで学べる?
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中高生におすすめ

日本占領史1945-1952 東京・ワシントン・沖縄

福永文夫(中公新書)

近現代史まで手が回らない方への推薦本、というわけではありません!今日、政治的・社会的に問題となる議論には、占領期に源流を持つものが多くあります。憲法、教育基本法、東京裁判、沖縄、米軍基地などなど。日本の「いま」と「未来」を考えるために、「過去」を見つめてみませんか。


ザ・ウェーブ

モートン・ルー、訳:小柴一(新樹社)

なぜ、一部の人に多くの人が支配されるのか、なぜ、集団化した人々はマイノリティの人々を差別したり迫害したりするのか、なぜ、非人道的な命令にも人は従ってしまうのか。この本は、ある学校で実際に起こったことを小説に脚色した作品であり、これらの「なぜ」を改めて考えさせてくれる貴重な書物です。読めば背筋が寒くなります。ご注意を!


デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士

丸山正樹(文春文庫)

この作品は推理小説です。しかし、その枠を超えて、聴覚障がい者との共生、「バリアフリー」を進める上でもう一歩踏み込むことの大切さ、その踏み込み方を教えてくれる書物です。本作の特徴は、当事者に非常に近い「健常者」の視点から描かれている点であり、当事者に寄り添うということがどういうことか、考えさせられる作品でした。


先生に一問一答
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

哲学

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

フランスのパリ。歴史ある街で暮らすことで、じっくり思索にふけりたいから。

Q3.感動した映画は?印象に残っている映画は?

『ロレンツォのオイル』

Q4.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

 ビルの警備員


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