教科教育学

小学校の国語

多様な身体・生活背景の子どもたちの「ことばの学び」


原田大介先生

関西学院大学 教育学部 教育学科(教育学研究科 教育学専攻)

出会いの一冊

わたしのせいじゃない せきにんについて

レイフ・クリスチャンソン、絵:ディック・ステンベリ、訳:二文字理明(岩崎書店)

この絵本は、「学校の教室で、ひとりの男の子が泣いています。いったいどうしたのでしょう」という問いかけから始まります。その後、何人もの子どもたちが、悪いのはその男の子のせいだと訴え、それぞれの理由で「わたしのせいじゃない」と言い続けます。

物語の後半では、学校の教室から離れて、核兵器、飢えに苦しむ子ども、大量のゴミ、銃を持つ子ども、といった写真が並び、「責任とは何か」を考えさせる構成になっています。

多様性を包摂する授業のあり方を考える上で、「責任」という観点は避けて通れない問題です。自分とは関係がなさそうなことに対して、どのように責任を持つことができるのか。「わたしのせいじゃない」という思考ではなく、「わたしの問題である」という思考を育てることが、国語科授業を含む、すべての授業で求められています。

こんな研究で世界を変えよう!

多様な身体・生活背景の子どもたちの「ことばの学び」

国語科でのインクルーシブ教育

私は国語科教育を研究しています。皆さんもご存じのとおり、国語科教育は、子どもたちの「話す」「聞く」「書く」「読む」といった言語行為の力を育てる教科です。

また、私はインクルーシブ教育も研究しています。インクルーシブ教育とは、「多様性を包摂する学び」を意味します。日本で言えば、障害や疾病、多様な性、外国とのつながり、経済的貧困、虐待といった多様な身体・生活背景のある子どもたちの実態を見つめ、すべての子どもたちが学びに参加できるための授業を開発することが求められています。

私自身は発達障害(高機能自閉症とADHD)の当事者であり、吃音もあります。特に吃音には幼少期より悩まされてきました。国語科の授業でする「音読」や「スピーチ」には、辛い記憶しかありません(笑)。

多様性を描いた絵本を教材に

私を含む、多様な身体・生活背景のある子どもたちにとって、本当に必要な「ことばの学び」とは何かを探っています。

具体的には、45分や50分の国語科授業をどう実践すべきかについて、現場の先生方に向けて提案したり、先生方と一緒に実践したりしています。昨年は、大阪府寝屋川市内にある小学校で先生方と授業研究に取り組みました。

また、教材として使えそうな「多様性を描いた絵本」を書店で探したり、その絵本を用いた学習の手引きを考えたりもしています。

子どもたちにとって、授業という空間を少しでもより良いものに変えること。そこに研究の面白さを感じています。

ゼミでの発表やり取り
ゼミでの発表やり取り
SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

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小学校における国語科授業を、すべての子どもたちが参加でき、少しでも意味のある、知的に面白い場にしたいと考えています。

国語科授業は制度的なものである以上、文部科学省が定めた学習指導要領(先生が用いる授業のルールブックのようなもの)によって枠組みが規定されていますが、学習指導要領に記載されたその文言の意味を、より良いものへとずらしていく、場合によっては文言そのものを提案することで、子どもたちが受ける授業の姿を変えていくことができます。国語科授業を多様性に開かれたものにすることで、SDGsの4番や5番の目標に貢献できると考えます。

先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「発達障害のある児童を含むインクルーシブな小学校国語科授業のカリキュラム開発」

詳しくはこちら

注目の研究者や研究の大学へ行こう!
どこで学べる?
先生の研究室では

多様性を包摂する教育のあり方を考えるためには、多様性とは何かを知る必要があります。多様性を学ぶ上で、絵本はとても有効です。絵本は乳幼児のものだと考える人もいますが、決してそんなことはありません。子どもだけでなく、大人こそが読むべきメディアであり、知的関心にあふれています。こういったことを実感するために、多様性を描いた絵本を一人一冊持ち寄り、みんなで読み合い、気づいたことを話し合っています。

もっと先生の研究・研究室を見てみよう
ゼミ生卒業時
ゼミ生卒業時
先輩にはこんな人がいる ~就職

◆主な職種

(1) 小学校教員

(2) 幼稚園教員、保育士等

(3) 学習支援(塾、フィットネスクラブ、各種教室、通信講座等)業の教員、インストラクター

◆学んだことはどう生きる?

私の研究室では、教育問題だけでなく、自分自身の生きづらさと向き合い、言語化し、その生きづらさを作り出している社会問題を考えます。このような学びを受けたゼミ生は、小学校教員、教育関連の企業、人と関わることを大切にした福祉・企業等に就職しています。


大学院に進学する学生もいます。国語科教育は、子どもたちの「話す」「聞く」「書く」「読む」といった言語行為の力を育てる教科ですが、言語の問題を考えることによって、学生一人ひとりのことばの力も育つ点に特徴があります。

先生の学部・学科は?

関西学院大学教育学部教育学科には、幼児教育学コース、初等教育学コース、教育科学コースの3つのコースがあります。「子ども理解」を軸に、教育の問題と可能性について、実践と理論の観点から学ぶことができます。関関同立(関西大学、関西学院大学、同志社大学、立命館大学)と呼ばれる私立大学の中で、唯一「教育学部」がある大学であり、教育問題に関心のある(特に関西の)優秀な学生が集まる点に特徴があります。もちろん、私が所属する学科ですので、国語科教育やインクルーシブ教育についても深く学ぶことができますよ。

中高生におすすめ

よるくま

酒井駒子(偕成社)

男の子と「よるくま」という名前のくまのこが、いなくなった「よるくま」のお母さんを探しに出かけるお話です。物語の最後では、「よるくま」のお母さんは魚釣りのお仕事をしていたことがわかります。

児童書のジャンルにおいても、ふたり親家庭を描いた物語が圧倒的に多いのが現状です。この絵本は、ひとり親家庭の子どもたちを勇気づけ、優しく励ましてくれます。


もりのおふろ

西村敏雄(福音館書店)

動物たちが森のお風呂に集まり、お互いに背中を洗うお話です。就学前の子どもたちは、「ごしごし しゅっしゅ」という繰り返しのことばに大喜びです。子どもと関わるのが苦手な方は、この絵本を手に持って読み聞かせに挑戦してみましょう。子どもたちとすぐに仲良くなれますよ。

多様な動物が背中を洗うことで一つの円になる場面は、多様な社会とは何かを考える機会にもなるでしょう。


バルバルさん

乾栄里子、絵:西村敏雄(福音館書店)

町のはずれで、床屋を営むバルバルさん。ある朝、開店準備をしていると、ライオン、ワニ、ひつじ、りす等、次から次へと「かわったおきゃくさん」がお店に来ます。

戸惑うバルバルさんですが、少しずつ、「かわったおきゃくさん」への対応を楽しむようになります。自分にとって理解することや受けとめることが難しい他者を「歓待する」とは、どういうことなのか。このことを楽しく教えてくれる絵本です。


先生に一問一答
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

やっぱり今と同じく、教育学(国語科教育学)です。

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

住めば都、なので、今のままで。

Q3.大学時代のアルバイトでユニークだったものは?

 シュークリーム工場で、商品価値のあるシュークリームと、そうでないシュークリームを冷静に見分ける仕事。

Q4.研究以外で楽しいことは?

2歳と6歳の娘の子育てです。

Q5.会ってみたい有名人は?

谷川俊太郎さん(もうお会いできました)


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