SDGsに取り組む企業の株価は高い!世界9万社の財務を分析
利益を誰に分配するか、税金をしっかり納めているか
SDGs達成に向けて、経済社会の持続可能性を確保するためには、企業活動の実態をグローバルレベルで解明し、その課題を解決していく必要があります。
そこで私たちの研究グループは、世界の企業(160カ国、上場企業約9万社)すべての財務データを使って、前処理・データラングリング、探索的データ解析、結果の可視化によって、企業活動の実態を明らかにしようとしています。
それでは、世界の上場企業についてのクイズです。
問1 企業は付加価値を、誰に最も多く分配しているでしょうか。問2 税金を全く払っていない企業はどの国に多いでしょうか。
A 日本 B 中国 C アメリカ
問3 SDGsに取り組む企業の株価はどうでしょうか。
A 低い B 普通 C 高い
従業員に分配するか、投資家に分配するか
問1 企業が生産等で生み出した付加価値を、主なステークホルダーにどう分配してきたか(利息として債権者に、給与として従業員に、税金として政府に、利益を通して投資家に)の過去25年間の推移を見ると、答えは国によって異なります。ヨーロッパ、特にドイツ・フランスでは従業員への分配が高い水準で維持されています(これらの国では解答はA)。
アメリカ企業では、過去10年間に、従業員への分配が減り、投資家への分配が増えています。ロシア、中国、インドでは、従業員への分配が少なく、利益を通した投資家への分配が大きく、中東(サウジアラビアなど)ではさらに顕著です。これでは経済成長をしても中間層が生まれず、格差は拡大するでしょう(これらの国では解答はAまたはC)。
利益率が高い企業にも租税回避の可能性
問2 企業の利益率と実効税率(支払税金/税引前利益)の散布図を見ると、税金を払わない企業が利益率の相当高い企業にもあり、特にアメリカ企業に多く(解答はC)、租税回避の可能性が見えます。
SDGsに取り組む企業の株価は高い
問3 49カ国の企業のESG(環境・社会・ガバナンス)活動を評価したFTSE Russell ESG Rating(2018年度)を用いて分析すると、スコアの高い(SDGsに取り組む)企業の株式時価総額が高いことがわかりました(解答C)。これはSDGsに取り組む企業へのgood newsです。
企業への支持・不支持を表明し、社会を良い方向へ
世界を正しく知ることは、民主的な参加やガバナンスに不可欠です。私たちがこれからどのような社会を作っていきたいのか、未来は私たち自身が実態を知り、自ら責任を持って行動することにかかっています。
商品・サービスの購入から株式投資、就業先の選択まで、一人一人が企業に支持や不支持の意思表明を行い、社会をより良い方向へと導いていくことが重要なのです。
この研究ではそのための証拠を多くの人々に提示し、SDGs達成に向けて、企業・ステークホルダーの行動やルールの変化を促すために、役立てればと願っています。
社会に大きな影響を持つ企業行動の実態を示し、私たち(ステークホルダー)がそれに対して責任を持った行動を取ることで、SDGsの達成に向けて社会を変えていけると信じています。「無関心」は社会を企業の都合の良いようにも変えてしまう(アメリカのように)最大の敵だと思っています。
◆先生が心がけていることは?
質素に暮らすこと
「共有価値創造(CSV)のための社会環境会計の構築」
◆初回授業で学生に勧める本・映画
会計やSDGsについての理解を深めてもらうため、まず以下の書籍・映画を見てくださいと紹介しています。
1.会計を理解するために
・『マンガで入門! 会社の数字が面白いほどわかる本』(ダイヤモンド社)
2.SDGs関連
・映画『不都合な真実2』ボニー・コーエン監督(2017)
→温暖化問題の実態と国際的取り組みについて知る。
・映画『ブルー・ゴールド 狙われた水の真実』サム・ボッゾ監督(2010)
→公共財の民営化や、市場経済の限界について考える。
・映画『ザ・トゥルー・コスト-ファストファッション 真の代償-』アンドリュー・モーガン監督(2016)
→学生にも身近なファッションを通して、企業の成功と人々の幸福とのギャップは、なぜ、どのように生じるか、市場の失敗(社会的コスト)について考える。
・映画『キャピタリズム-マネーは踊る-』マイケル・ムーア監督(2009)
→世界不況や、格差社会がどのように生じるかについて考える。
・映画『シッコ』マイケル・ムーア監督(2015)
→「命」に直結する企業のあり方や社会との関係、市場の失敗について考える。
・映画『ジャマイカ-楽園の真実-』ステファニー・ブラック監督(2005)
→グローバル経済の功罪を考える。
・映画『暴走する文明』マチュー・ロイ、ハロルド・クロックス監督(2015)
→地球には無限の資源があるという前提で成り立っている経済システムの帰結と、進歩の罠について考える。
◆主な業職種
(1)製造業での財務など
(2)金融業での総合職
◆学んだことはどう生きる?
公認会計士や税理士として、企業再生、監査などに携わっている卒業生がいます。ゼミなどでは、SDGsやCSR(企業の社会的責任)活動と企業価値との関連の分析などをしていますが、このような問題意識は、特定の仕事で活かすというより、社会に出て行くすべての学生に持ち続けてほしいと願っています。
関西学院大学商学部には、卒業生に会計専門職(公認会計士、税理士、国税専門官)が多く、広いネットワークを持ち、公認会計士の(現役)合格者も多いです。ビジネス界においても、多くの卒業生が社長・役員等として活躍しており、広いネットワークを持っています。
商学部では、6つのコースがあり(会計、経営、ファイナンス、マーケティング、ビジネス情報、国際ビジネス)、例えば、会計に加えてデータサイエンス・統計(ビジネス情報の科目)も深く学べることが利点であり、ビジネス分野の学部でデータサイエンスなども学べることが強みです。
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ? 今と同じく会計学。 |
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Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? オーストラリア。以前、首都キャンベラで2年間過ごしました。家族を大切にする文化、多様性、(日本に比べて)質素な生活が魅力的でした。 |
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Q3.研究以外で楽しいことは? 「子育て」というほどのことはしていませんが、子どもと一緒に過ごすことが何より楽しいです。 |