子どもと哲学を 問いから希望へ
森田伸子(勁草書房)
子どもが哲学的に考えること、おとなが子どもと哲学的に考えること、その意義が細やかで温かい筆致で綴られる。その要点は次の一節によく表されています。「哲学は、人間がなぜか共有している『意味』の世界へとどこまでも近づこうとする営みそのものです。この営みは、言葉を介することなしにはありえません。意味は言葉と別に存在することはできないからです。そこで、私たちは自分たちが使っている言葉の意味を互いに吟味しあい、言葉を尽くすことによって、一歩ずつ探求の歩みを進めていかなければなりません。そして、意味の世界がすべての人間に共有のものであるとしたら、哲学の営みはまた、すべての人とのつながりを求める営みでもあります。
学校で、カフェで、会社で、哲学しよう!
「個性」という日常的な言葉も、理解は様々
皆さんは「個性」という言葉を知っていますね。そして「個性を大切に」「あの人は個性的だ」というように、「個性」という言葉を普通に使っています。では「個性」って何ですか。こう問われると、みんな考え込んでしまいます。そして「他の人が持っていない長所」「その人らしさ」「僕が僕であること」など、様々な意見が出てきます。
みんなが知っていて使っている「個性」という言葉を、実はみんな違うふうに理解しているのです。そこで、改めてみんなで考えてみましょう。「個性とは何か」。
知っていることを改めて問い直すのが「哲学」
このように、すでに知っていると思い込んでいる事柄を、私たちは実はよく知らないということに気づき、改めて問いかけ、じっくり考えることを「哲学」と言います。私たちの身のまわりには、そのような事柄がたくさん転がっています。
「友情」「自由」「幸福」「善悪」「真理」…このような事柄を人類はもう何千年も考えてきました。そして、特に深く考え、優れた答えを与えた人々を「哲学者」と呼びます。
哲学は研究者だけのものじゃない
皆さんも、有名な哲学者を何人か知っているかもしれません。プラトン、カント、サルトル…。そして、大学で哲学者の書いた難しい書物を研究している人たちがいることも、知っているかもしれません。でも、哲学を大学の研究者だけに任せておくのはもったいない、というのが、僕の研究の出発点です。
「個性」って、みんな気になることでしょう。「友情」「自由」「幸福」も。そこで、社会の様々な場所で哲学をしてみよう、そのためにはどんな方法があり、それをすることによってどんな成果が得られるかを調べるのが、私の研究の内容です。
小・中・高等学校、街のカフェ、企業を主な舞台として研究しています。日常生活の中から問いを見つけ、その問いを他の人たちと対話しながらじっくり考える力は、小・中・高校生も、生活者も、企業人も必要とするものです。そして何より、私たちの人生を豊かにし、世界を変えることを助けてくれます。
異なった考えを持つ人々と対話しつつ、世界や人間について考えを深めていく哲学の作法(マナー)と技法(スキル)は、持続可能な社会を実現するための知的活動の基礎の基礎です。持続可能な発展のための教育を推進するユネスコも1995年の「パリ宣言」で哲学が現代社会のあらゆる場所で推進されなければならないと謳っています。
横浜市立小学校でESD(持続可能な発展のための教育)の一環として5,6年生と哲学対話の時間をもちました。ESDに必要な、多様な人々とコミュニケーションをとりながら、自分で考え、共に考える力を養うためです。
◆先生が心がけていることは?
ごみを分別する、再利用できるものは再利用してごみの量を減らす、地産地消を心がける、エレベーター・エスカレーターに乗らない、自家用車に乗らず公共の交通機関を利用する、できるだけ獣肉を食べない、難民支援、平和構築に貢献するNGOを支援する、選挙に行く、デモに行く、哲学対話を推進する市民団体で活動する、環境、人権、平和に関する哲学対話を主宰する、など。
「現代社会に生きる哲学教育を構築するための理論的・実践的研究」
◆「現代社会でも重要な「問いを問う」力。哲学的思考が価値観をひらく」(上智大学×YOMIURI ONLINE)
◆「「問いを立てて考える」本来の哲学がいまこそ必要とされている」(読売新聞 オピニオン)
◆学んだことはどう生きる?
人間と人間を取り巻く世界のありとあらゆるものを研究対象とする究極の学際的学問である哲学を学び、自分で考え、表現し、他の人々とともに考える究極のアクティヴ・ラーニングである哲学的対話を学んだ人は、社会のどの分野に進んでも活躍することができます。が、中でも特に「哲学」を前面に出して活躍している人には次のような人がいます。
大学院博士前期課程(修士)を修了し、コンサルティング企業に就職して、企業研修の方法として哲学のワークショップを開発している卒業生やフリーランスのライターとして社会に生きる哲学を開拓している卒業生がいます。同じく大学院博士前期課程(修士)を修了し、高校教員となり、哲学的対話を中心とする公民科の授業を実施している卒業生がいます。
一年次から少人数のゼミナール形式の授業を積み重ね、哲学の古典を精読する技能を養うとともに、自ら問いを見つけそれを深く掘り下げ、他の人々とコミュニケーションを取りつつ思考する作法と技法を養います。いわば究極のアクティブ・ラーニングです。
また、古代から中世を経て近世・現代にいたるヨーロッパの哲学の歴史を通して学び、哲学的思索の豊かな遺産を概括的に学び、自らの哲学的思索の糧としています。哲学では、人間とそれを取り巻くありとあらゆる事柄が思索の対象となるところが、特定の領域を研究対象とする他の学部・学科と異なります。
Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? ドイツ。都会でも生活のリズムがゆったりし、自然に浸る機会が多い。また、市民の人権意識が高い。馴染みのある外国語(英語、ドイツ語)がどちらも使える。 |
|
Q2.一番聴いている音楽アーティストは? ベートーヴェン。ピアノ協奏曲が好きです。 |
|
Q3.感動した映画は?印象に残っている映画は? 『大理石の男』、『ある精肉店の話』 |
|
Q4.大学時代のアルバイトでユニークだったものは? 肉屋。牛の半身が天井からぶら下がっている大きな冷蔵庫から肉の切り身を取り出して、店頭に並べる仕事。 |
|
Q5.研究以外で楽しいことは? サイクリング、世界名酒紀行 |