影との戦い ゲド戦記
アーシュラ・K・ル=グウィン、訳:清水真砂子(岩波少年文庫)
英語では教育は、education ですが、ドイツ語だと同じことをErziehungとBildungという二つの言葉で言い表します。Erziehungは他者に対する働きかけ、他方Bildungは自己形成(人間形成)です。教育というと、もっぱら他者支援のことだけを考えがちですが、それも当該の人の自己形成のあり方を考えなければうまくはいきません。
自己形成のドラマの面白さを優れて見せてくれる物語の一つが、この『ゲド戦記』です。作者のル・グウィンには『闇の左手』(ハヤカワ文庫SF)という小説もあって、こちらもオススメです。こちらは人間形成には直接関係はありませんが。
あなたの仕事人生、話してくれませんか。「人間形成」を探る
人間形成は人が変わるということ
私たちの課題は、「人間形成」のあり方を明らかにすることです。人間形成というと目指すべき人間像、のことかと思うかもしれません。例えば、人格者のようなイメージです。しかし、私たちはそれを人が変わるということと考えています。
この、「人間形成」への問いを私たちはこの数年、とりわけ「仕事」との関係で考えています。方法は、インタビューです。
インタビューはこんな風に始めます。あなたが最初に仕事のことを意識したのはいつでしょうか。その時から振り返って、あなたの仕事人生についてできるだけ詳しく、私に話してくださいませんか。私は口を挟みませんので、あなたがこれで終わりと思うまで、お話しください。
驚くほど豊かなストーリーが引き出せる
こんな曖昧な聞き方で大丈夫なのかと思うかもしれませんが、これは往々にして、驚くほど豊かなストーリーを引き出してくれます。語られたストーリーは、話の長短にかかわらず、人間形成に関する私たちの問いに様々なことを教えてくれます。
人はどんなきっかけで変容するのか、変容のあり方には何らかのパタンがあるのだろうか等など…。トランスクリプトを、なんどもなんども読み返し、解釈する。そのためには他者の人生に対する深い共感と、そしてそれに分析のメスを入れる研究者の視点と、その双方が必要です。
皆さんはどうでしょう。これまでの人生を振り返って、自分や他者、世界に対する見方が変わったと、そう思う出来事や経験が、皆さんにはありますか。
広い意味での教育、人間形成というのは人類の歴史とともに古い問題です。社会が存続していくためには、その社会を支える人を育てる必要があるからです。人間形成の課題は、最終的にはその人が生まれ育った地域・社会に対して何らかの責任感を感じ、それをより良いものにしようとすることを自明のこととして受け入れる人材を育てることだと考えています。
その意味では人間形成は、特に「質の高い教育をみんなに」、ひいては、17の目標で掲げられたすべての課題に関わるとも言えるかもしれません。
「学校から職業への移行と人間形成に関するビオグラフィー的研究」
笠原広一
東京学芸大学 教育学部 芸術・スポーツ科学系 美術・書道講座/教育学研究科 教育実践専門職高度化専攻
【美術教育学】美術制作のオートエスノグラフィーの研究をされています。非常勤で中央大学に教えに来られているのですが、私が見せていただいた授業では、冒頭で個と社会についての画像を撮るといった具体的な課題を提示し、大学周辺で実際に学生たちが撮ってきた映像を、最後の20分ほどでシェアするといった展開でした。先生の研究とも連動させた授業形態と思われますが、学生たちが自分たちなりに構成した画像も含めて、楽しませてもらいました。
◆授業「教育哲学」の初回では
教育というと学校教育をイメージする学生が多いので、学校のない社会の教育のことから話を始めます。その際、20世紀初頭に消滅したインディアンの部族の酋長の自伝(K・モレンハウアー『文化伝達と教育』に掲載)を資料に使っています。その際、20世紀初頭に消滅したインディアンの部族の酋長の自伝(K・モレンハウアー著『文化伝達と教育』みすず書房、に掲載されています)を資料に使っています。
◆主な業種
(1)小・中学校、高等学校、専修学校・各種学校等
(2)学習支援(塾、各種教室、通信講座等)、人材養成、人材派遣等
(3)官庁、自治体、公的法人、国際機関等
◆主な職種
(1)中学校・高校教員など
◆学んだことはどう生きる?
2020年夏発行の『中央評論』312号の特集で、「あなたにとって仕事とは」というテーマで、卒業生たち十名に、彼(女)らの仕事人生について執筆してもらう機会があったのですが、それを読むと卒業生たちが、教師、公務員、また、様々な業界の会社員など、幅広い分野で活躍していることがわかります。フリーで働いている方もいます。教育学専攻出身ということもあって、一度は教師の道を考えたことがある人も多く、現在の職種は様々でも、仕事に関わる周りの人たちに対する影響や、その人たちから受ける社会的承認を重視する人が多いように思います。
中央大学の教育学専攻は、教員養成課程ではありません。もちろん、教職課程を履修し教員免許を取得することはできますが、専攻の専門科目では教育哲学、教育史、教育社会学、教育方法学、教育行政など、幅広い分野の視点から教育について学ぶことができることが特徴です。
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ? 古代史や考古学など。リアルな人間の営みを、一見それとは縁のなさそうな古文書や遺跡の中に探すというのが面白そうです。 |
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Q2.一番聴いている音楽アーティストは? 以前はジョニ・ミッチェルをよく聞いていました。楽曲ではなくアルバムですが、1970年代の『ブルー』『コート・アンド・スパーク』が好きです。最近は、冨田ラボの曲をよくバックに流しています。 |
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Q3.感動した映画は?印象に残っている映画は? 思い出すとたくさんありますが、ここ数年でいえば、『海炭市叙景』。印象に残る映画というのは、それを見た時の状況とも関係しているのかもしれません。 |