年収は「住むところで」で決まる 雇用とイノベーションの都市経済学
エンリコ・モレッティ、訳:池村千秋(プレジデント社)
地球上には成長し繁栄を謳歌する都市がある一方で、衰退を余儀なくされている都市もあります。新しいイノベーションの拠点となった都市は成長し、従来型の製造業を中心とした都市は衰退傾向にあるのです。こうした都市の成長の違いは雇用にも影響していて、成長する都市では雇用が創出されるだけでなく、労働者の給料にも影響しています。
これまでの経済学では、給料は労働者の技能や知識で決まると考えてきましたが、この本ではむしろ「どこに住むか」が重要だと説いています。
個々人が教育や訓練を受けて技能や知識を蓄えるだけでなく、人々の知を集結する拠点をつくり、そこでイノベーションを起こすことが、良好な雇用を創出する源泉だというこの本の説明は、今後の雇用政策を考える上で、とても示唆に富んでいます。
「地方創成策」は若者の流出を止める雇用を生んだのか
若者の労働人口の減少が顕著に
日本では少子高齢化が進展し、2008年をピークに総人口が減少しています。若者の人口減少が顕著で、今後の経済社会に悪影響を及ぼすと心配されています。
若者を中心に働き手が減れば、企業の生産活動だけでなく、祭事や災害時のボランティアなど地域社会の担い手もいなくなります。
若者は卒業すると地元を離れる
2019年1月時点、東京都や神奈川など首都圏4都県と沖縄県のみで人口増があり、その他の道府県では人口減になりました(総務省『住民基本台帳』)。
人口変動の要因は出生と死亡の差による自然増減と転出入による社会増減ですが、首都圏での人口増は社会増が、その他の道府県での人口減には自然減と社会減の双方が影響しています。地方部での社会減は、若者が高校卒業直後に進学や就職で地元を離れるからです。
地域の雇用再生は重点課題
もし良好な進学先や就職先があれば、地元に残る若者は増えるかもしれません。こうした観点から、首都圏一極集中を是正し地方の人口減少を止めるため、政府は地域の雇用再生を重点課題とし、地方創生の政策を実施しています。
では、地方創生政策は地域の労働市場にどのような影響を与えているでしょうか。私たちの研究では、地域間の相互依存関係を考慮した経済モデルを分析することで、地域の労働市場における雇用創出と消失のメカニズムを明らかにしようと試みています。
さらに、地方創生を含む地域雇用政策が労働市場に与えた効果をエビデンスに基づき検証し、地方創生に資する地域雇用政策のあり方についても考察しています。
日本国内だけでなく、地球上でも地域労働市場の問題は重要です。衰退する地域から成長する地域へ若者が移動すると、衰退する地域はますます衰退しかねません。地域間の雇用格差を小さくし、各地の雇用を創出し、人々が豊かに暮らすためにはどうすれば良いのか。こうした観点から私たちは研究に取り組んでいます。
「地域雇用政策の地域労働市場の雇用創出・消失に与える影響に関する研究」