立ち後れる「日本法」の英語発信、的確な表現で他国との相互理解を
グローバル時代にあって法はローカル
「日本法」という言葉が示すように、法という制度は極めてローカルな性質を持ちますが、グローバル社会での人の活動は、国境を越えます。ここに、法が機能不全を起こして、「法の支配rule of law」が破綻し、世界が「強い者勝ち」となる危険が潜んでいます。
Googleに対しアメリカ・カナダで異なる司法判断
例えば2017年、カナダ最高裁は、海賊商品ネット販売被害を受ける企業救済のため、Google社に、海賊商品サイトを全世界の検索結果から除くよう命じました。しかし同社は、アメリカの裁判所から、同国内でこの命令に従う必要はない旨の判決を得ます。グローバルビジネスに、2つのローカルな法が異なる結論を示したのです。
他方で、こうした事態回避のため、無理に世界の法統一を試みると、「強国」の法や価値観の押しつけが生じ、逆に世界が不安定化する危険が増大します。
「契約」と「contract」に違い
そこで各国・地域の法と文化を理解し、多様性を維持しつつ、相互尊重・承認を模索するアプローチが重要となりますが、その入口に生じるのが法言語問題です。
法を記述するどの言葉も、その社会の歴史・文化・宗教等と結びついており、相互理解を困難とします。例えば、日本法の契約とイギリス法のcontractは、よく重なり合う制度ですが、無視できない違いがあり、時として誤解や混乱を引き起こします。
日本語での英米法研究は相当進んでいますが、日本法の英語発信については、残念ながら立ち後れが見られるのも原因の一つです。そこで私たちは、日本法の正確な発信・理解に繋がる英語による表現の研究を通して、法の多様性の把握を容易にし、rule of lawの確立に貢献することを目指しています。
10及び16の課題を解決するためには、グローバル社会において、法や価値観の一元化・統一という方法による紛争処理や正義の実現が、逆に多様性を破壊し、法の支配の危機を招くという現実に、どのように立ち向かうかが重要となります。
法的多様性の承認と相互理解には、他の法システムに対する理解が不可欠ですが、そのためのいわば中間共通言語して役割が期待される英語が、「英米法言語」であることにより、問題の解決を難しくしています。本研究は、こうした問題構造に着目し、まず日本法が正しく理解されるよう英語で発信し、もって、法・法文化の相互理解を促進し、10及び16の課題に貢献するものです。
「グローバル法過程における日本法の位相解明と英語による日本法表現・発信に関する研究」
現在進めている研究については、多くのウェブサイトに研究報告や解説があります。一般に法律学という学問は、「六法を暗記して、難しい言葉で、しかめ面で議論するもの」というイメージがあると思いますが、決してそうではないことをお伝えしたいと思います。
◆比較の視点からする法研究と英語
アメリカ法律英語とカナダ法律英語のギャップについて、エピソードを紹介しています。
◆私立大学研究ブランディング事業「アジア太平洋地域における法秩序多様性の把握と法の支配確立へ向けたコンバージェンスの研究」の中間成果報告~国境を越えるインターネット上の取引への規制を具体例として~
上でも紹介したカナダ最高裁判決をめぐる問題を解説しています。
◆ICTの発展で国家法や条約で解消できない問題も生じている
講演記録ですが、暗号資産(当時は「仮想通貨」)について、その国境を越えるという性質と法の衝突を論じています。