福祉社会学

中国残留孤児

中国残留孤児の人生を通して、人間の孤独に迫る


鍾家新先生

明治大学 政治経済学部 政治学科(政治経済学研究科 政治学専攻)

出会いの一冊

まなざしの地獄 尽きなく生きることの社会学

見田宗介(河出書房新社)

犯罪者であるN・Nという少年の生活史記録に関する分析を通して、現代日本の都市、農村から移住してきた人間にとっての解放の誘惑と冷酷な圧迫、近代資本制の原理に解体された家郷への憎悪、資本主義社会の構造的特質を社会学的な視点で分析しています。

近代化の格差を生きる農村出身者の喜怒哀楽や尽きなく生きる姿と絶望感を見事に描き出した名著です。現代社会を階級や地域によって構成された静態的なものとしてではなく、無数の人間の個別性と一回しかない関係性として捉える視点が鋭いです。

こんな研究で世界を変えよう!

中国残留孤児の人生を通して、人間の孤独に迫る

中国残留孤児への分析は孤独研究の有効な手法

私は現代人の共通した心情の一つである孤独に強い関心を持っています。研究する社会集団によって、得られる孤独の実態が異なり、現代人と現代社会の本質に関する理解も異なります。私は中国残留孤児という移動する社会集団に関する孤独研究がより有効な研究手法だと気がつき、研究を行っています。

インタビューで「人間の孤独」を実証的に究明

中国残留孤児、中国人養父母、中国人兄弟姉妹には中国語で、日本人ボランティアなどに対して日本語で、長年、大量のインタビューを行いました。インタビューの過程において、私は中国残留孤児の波乱万丈な人生のドラマに感動を覚え、人間の孤独という普遍的な問題を、インタビューに基づいて実証的に究明しようと考えました。

中国残留孤児問題は人類史の歴史上では一回限りの特殊な社会現象にすぎませんが、日本と中国との近代化の格差という社会変動の普遍的な現象の産物だといえます。

帰国しても依然と孤独は続く

「祖国」日本に帰国する前、中国残留孤児は「異国」中国で、中国人として生きてきました。しかし、子どもの頃に自分が日本人の子どもだとわかった中国残留孤児は、中国社会の中で孤独と疎外の心情を抱きました。

主に1980年代日本に帰国し、中年になった彼らは、「母国語」である日本語を自由に話せないため、日本社会にうまく融け込めず、依然として孤独と疎外の心情を持っています。

老年期に入った彼らは、その心情がより強烈になっています。個人の人生が国家に翻弄されてきた中国残留孤児は、現代人の縮図であり、「国家は幻想の共同体だ」という現実を冷酷に示した存在です。

<本研究の成果は英文の単著として英国のRoutledgeという有名な出版社で出版されます(Jiaxin, Zhong, Japanese War Orphans: Abandoned Twice by the State, Routledge, 2022. )。>

中国残留孤児を育った 中国残留孤児の養父母の記念碑(2011年、中国ハルビン市の現地聴き取り調査時)養父母の死去後、中国残留孤児が中国とのかかわりが減り、孤独の一要因になっています。
中国残留孤児を育った 中国残留孤児の養父母の記念碑(2011年、中国ハルビン市の現地聴き取り調査時)養父母の死去後、中国残留孤児が中国とのかかわりが減り、孤独の一要因になっています。
SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

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貧困の撲滅や、保健・福祉の向上に関する実態の調査と政策提案に貢献できます。すべての社会における貧困の撲滅と保健・福祉の向上は、人類にとってきわめて困難な課題です。国内では社会保険と公的扶助との有機的な結合が重要ですが、ウガンダでの調査研究から見ると、国際的には途上国における産業育成と人材養成が重要な克服策です。

先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「<老年期の中国残留孤児>の孤独の実態と原因に関する研究」

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注目の研究者や研究の大学へ行こう!
どこで学べる?
先生の授業では
◆講義「社会福祉政策論」では

社会福祉政策の形成と発展の過程を「十五年戦争」などの視点から講義し、高齢化とグローバル化における社会福祉政策のゆくえを探る。

もっと先生の研究・研究室を見てみよう
2019年、山中湖でのゼミ合宿
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先輩にはこんな人がいる ~就職

◆主な業職種

(1) 商社(会社員)

(2) 福祉(施設職員)

(3) 官庁・自治体(公務員)

◆学んだことはどう生きる?

国際性を重視してきたので、海外との関連のある商社に勤めるゼミ生が多いです。また、福祉を専門的に研究しているので、福祉関連の公務員として務める人もいます。

先生の学部・学科は?

明治大学政治経済学部は、政治学・経済学・社会学・地域行政などを横断的に学習することができるところに特色があります。

中高生におすすめ

社会学の根本問題 個人と社会

ジンメル著、清水幾太郎訳(岩波文庫)

社会は人びとの心の相互作用の過程にあると指摘した著作です。社交は人々の心の相互作用の代表的な形式です。本当の社交を得るためには、相手と論争しないことや会話を楽しむことが重要だという指摘は、私の社交の方法を変化させました。


自殺論

デュルケーム著、宮島喬訳(中公文庫) 

自殺の社会的原因を分析し、自殺の類型化をはかった名著です。人間の欲望の膨張は自殺を引き起こすという鋭い指摘は、私の生き方を根本から考えるきっかけとなりました。「足るを知る」ことが人間の幸福につながります。


菊と刀

ルース・ベネディクト著、長谷川松治訳(講談社学術文庫) 

日本文化は「恥の文化」と指摘したのが、この名著です。私はこの著作から、日本文化の独自性や日本文化と中国文化との関連性を考えるヒントを得ました。緻密な聴き取りに基づく文化研究の手法は、私の研究に影響を与えました。 


先生に一問一答
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ?

やっぱり社会学。面白いから。

Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

アフリカのウガンダ。2回聴き取り調査に行った時、その文化・環境をもっと知りたいと思ったから。

Q3.大学時代の部活・サークルは?

バスケットボール。楽しかった。 

Q4.研究以外で楽しいことは?

客家の武術、書道、漢詩創作。 

Q5.会ってみたい有名人は?

山口百恵


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