弱い存在に環境リスクを押しつけない。「環境正義」を考える
被害が出ないと対策が取られない日本
初めて海外の環境運動団体に聞き取り調査に行った1983年、まだ日本では問題にされていなかったダイオキシンや石綿が、重大なリスクとして真剣に取り組まれているのに驚きました。
日本社会は、具体的な被害が出ないとなかなか対策が取られない、リスクに鈍感な面があります。福島の原発事故も、津波のリスクを軽視したことが原因の1つです。
どうすれば環境リスクは社会問題と認識されるか
温暖化、化学物質、プラスチックなど、社会によっても環境リスクの深刻さの受け止め方は様々です。どうしたら環境リスクは深刻な社会問題として認められ、政策課題になるのか、専門的に言えば「環境問題はいかに社会的に構築されるのか」、「それはどのように社会を変えるのか」が、私の「環境社会学」のテーマです。
途上国や南の島々から環境正義を求める声
ヨーロッパは、越境酸性雨被害などから「予防原則」を確立させました。アメリカでは、有害化学物質のリスクが有色人種に集中する「環境人種差別」から、環境正義、公正性に向けた環境運動が台頭しました。
環境正義を求める声は、電子廃棄物などの捨て場にされている途上国や、CO2の排出は少ないのに、真っ先に海面上昇の被害にあう島嶼諸国などでも高まっています。環境問題を機に、社会的不公正を是正したり、情報公開など社会の透明性を求める運動や政策が進められています。
◆先生が心がけていることは?
授業で、なぜ自分は水筒を持ち歩いているのかを、マイクロプラスチック汚染の事例を引いて説明すると、学生たちの机の上からペットボトルが消え、水筒派が増えてきます。
「環境リスクの認知と問題構築における環境正義・公正性の社会学的な国際比較研究」
藤川賢
明治学院大学 社会学部 社会学科/社会学研究科 社会学専攻
過去の公害や環境汚染が、放置、風化するメカニズムや、継続する被害、社会的影響の研究をしています。ダイオキシン汚染、水爆実験場など、世界各地に飛んで緻密な現地調査を敢行しています。
原口弥生
茨城大学 人文社会科学部 現代社会学科
アメリカ南部のアフリカ系住民による「環境正義運動」の実証的研究をしています。環境汚染被害をより受けやすい、社会的弱者の視点に立って研究を進めています。
堀田恭子
立正大学 文学部 社会学科/文学研究科 社会学専攻
日本及び台湾のPCB汚染食用油被害者(カネミ・台湾油症)の運動の比較研究をしています。個人の健康被害が、食品公害として社会問題化していく過程を分析しています。
◆環境社会学を学ぶ
環境社会学は、1992年に学会が設立された、社会学のなかでも新しい分野ですので、どこかの大学に集中しているというより、あちこちに散在しているのが現状です。研究の大まかな傾向としては、公害問題や環境運動の研究から出発した飯島伸子氏(元・東京都立大、故人)や舩橋晴俊氏(元・法政大学、故人)らの、主に関東圏の「環境問題学派」と、鳥越晧之氏(元・関西学院大学)や嘉田由紀子氏(元・京都精華大学、元・滋賀県知事)ら村落社会学研究出身の主に関西圏の「生活環境主義」派に分かれます。
明治大学の筆者も前者に属しますが、関東近辺の研究者としては、法政大学、立教大学、明治学院大学、早稲田大学、中央大学などの先生がおられます。
普通に暮らしていて気づかない環境・健康リスク、例えば知らずに食べている遺伝子組換え作物、プラスチックに含まれる環境ホルモンなどの話から、グローバル化した経済に依存した現代生活の危うさを考えてもらうなどしています。
◆主な業種
(1) 官庁、自治体、公的法人、国際機関等
(2) 小・中学校、高等学校、専修学校・各種学校等
(3) マスコミ(放送、新聞、出版、広告)
◆主な職種
(1) 中学校・高校教員など
(2) 営業、営業企画、事業統括
(3) システムエンジニア
◆学んだことはどう生きる?
地方公務員になった卒業生が相当数います。公務員ですので、所属部署も転々とするようですが、温暖化対策室とか地域づくり系の部署に配属された折に、ゼミで勉強したことが活かせていますと言ってくれたことがままありました。新聞記者や教員になった卒業生、大学院に進学し研究者になった人なども同様です。
Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? ゼミの実習で毎年伺っている「アジア学院」という、途上国の農村リーダーの有機農業研修施設があります。そこで出会う様々な途上国の人々からは、日本とは違った豊かさがあること、それを先進国のわれわれが脅かしている実態を教えられます。ぜひ現地の暮らしを体験したいと思っています。 |
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Q2.一番聴いている音楽アーティストは? ビートルズの(おじさん)コピーバンドをやっていますので、必然的によく聞きます。必ずしもビートルズというわけではありませんが、ノーベル文学賞を受賞したボブ・ディランをはじめ、1960-70年代の反戦平和、性や人種の共生という社会的メッセージを込めた音楽に惹かれ、授業でも学生に紹介しています。 |