社会学

環境正義

弱い存在に環境リスクを押しつけない。「環境正義」を考える


寺田良一先生

明治大学 文学部 名誉教授

出会いの一冊

(株)貧困大国アメリカ

堤未果(岩波新書)

1990年前後にソ連東欧の社会主義圏が崩壊し、2000年以降は、資本主義の独り勝ち、アメリカ一強の経済のグローバル化が進行しました。遺伝子組換え作物から医療保険まで、世界を股にかける多国籍企業の活動は、政治もコントロールし、国家の規制の手さえ及ばなくなりつつあります。環境運動や市民活動の前に立ちはだかる、グローバルな経済・政治システムの構造に果敢に切り込んだルポルタージュです。

こんな研究で世界を変えよう!

弱い存在に環境リスクを押しつけない。「環境正義」を考える

被害が出ないと対策が取られない日本

初めて海外の環境運動団体に聞き取り調査に行った1983年、まだ日本では問題にされていなかったダイオキシンや石綿が、重大なリスクとして真剣に取り組まれているのに驚きました。

日本社会は、具体的な被害が出ないとなかなか対策が取られない、リスクに鈍感な面があります。福島の原発事故も、津波のリスクを軽視したことが原因の1つです。

どうすれば環境リスクは社会問題と認識されるか

温暖化、化学物質、プラスチックなど、社会によっても環境リスクの深刻さの受け止め方は様々です。どうしたら環境リスクは深刻な社会問題として認められ、政策課題になるのか、専門的に言えば「環境問題はいかに社会的に構築されるのか」、「それはどのように社会を変えるのか」が、私の「環境社会学」のテーマです。

途上国や南の島々から環境正義を求める声

ヨーロッパは、越境酸性雨被害などから「予防原則」を確立させました。アメリカでは、有害化学物質のリスクが有色人種に集中する「環境人種差別」から、環境正義、公正性に向けた環境運動が台頭しました。

環境正義を求める声は、電子廃棄物などの捨て場にされている途上国や、CO2の排出は少ないのに、真っ先に海面上昇の被害にあう島嶼諸国などでも高まっています。環境問題を機に、社会的不公正を是正したり、情報公開など社会の透明性を求める運動や政策が進められています。

2014 年 、 横浜開催の「世界社会学会議」にて 、「福島原発事故後の環境リスク認知の変容」について報告
2014 年 、 横浜開催の「世界社会学会議」にて 、「福島原発事故後の環境リスク認知の変容」について報告
SDGsに貢献! 〜2030年の地球のために

◆先生が心がけていることは?

授業で、なぜ自分は水筒を持ち歩いているのかを、マイクロプラスチック汚染の事例を引いて説明すると、学生たちの机の上からペットボトルが消え、水筒派が増えてきます。

先生の専門テーマ<科研費のテーマ>を覗いてみると

「環境リスクの認知と問題構築における環境正義・公正性の社会学的な国際比較研究」

詳しくはこちら

注目の研究者や研究の大学へ行こう!


◆環境社会学を学ぶ

環境社会学は、1992年に学会が設立された、社会学のなかでも新しい分野ですので、どこかの大学に集中しているというより、あちこちに散在しているのが現状です。研究の大まかな傾向としては、公害問題や環境運動の研究から出発した飯島伸子氏(元・東京都立大、故人)や舩橋晴俊氏(元・法政大学、故人)らの、主に関東圏の「環境問題学派」と、鳥越晧之氏(元・関西学院大学)や嘉田由紀子氏(元・京都精華大学、元・滋賀県知事)ら村落社会学研究出身の主に関西圏の「生活環境主義」派に分かれます。

明治大学の筆者も前者に属しますが、関東近辺の研究者としては、法政大学、立教大学、明治学院大学、早稲田大学、中央大学などの先生がおられます。

どこで学べる?
先生のゼミでは

普通に暮らしていて気づかない環境・健康リスク、例えば知らずに食べている遺伝子組換え作物、プラスチックに含まれる環境ホルモンなどの話から、グローバル化した経済に依存した現代生活の危うさを考えてもらうなどしています。

もっと先生の研究・研究室を見てみよう
「アジア学院」での実習 。「草取りがこんなにきついとは 思わなかった。」
「アジア学院」での実習 。「草取りがこんなにきついとは 思わなかった。」
「アジア学院」にて、研修生のウガンダの難民支援係官からお話を伺う。「難民キャンプの配給食糧は、 1日800グラムのトウモロコシ粉だけ。少しでも難民が食料自給できるように、日本に有機農業を学びに来ました。」
「アジア学院」にて、研修生のウガンダの難民支援係官からお話を伺う。「難民キャンプの配給食糧は、 1日800グラムのトウモロコシ粉だけ。少しでも難民が食料自給できるように、日本に有機農業を学びに来ました。」
先輩にはこんな人がいる ~就職

◆主な業種

(1) 官庁、自治体、公的法人、国際機関等

(2) 小・中学校、高等学校、専修学校・各種学校等

(3) マスコミ(放送、新聞、出版、広告)

◆主な職種

(1) 中学校・高校教員など

(2) 営業、営業企画、事業統括

(3) システムエンジニア

◆学んだことはどう生きる?

地方公務員になった卒業生が相当数います。公務員ですので、所属部署も転々とするようですが、温暖化対策室とか地域づくり系の部署に配属された折に、ゼミで勉強したことが活かせていますと言ってくれたことがままありました。新聞記者や教員になった卒業生、大学院に進学し研究者になった人なども同様です。

中高生におすすめ

社会起業家 社会責任ビジネスの新しい潮流

斎藤槙(岩波新書)

営利企業は通常利潤を生みだすことを目的にしていますが、企業活動を通じて、環境保全、社会的弱者の支援、途上国の貧困解決など、社会的に有用な目標達成を目指すNPOのような「社会的起業」もあります。社会問題解決を目指す新しい生き方が紹介されています。


先生に一問一答
Q1.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? 

ゼミの実習で毎年伺っている「アジア学院」という、途上国の農村リーダーの有機農業研修施設があります。そこで出会う様々な途上国の人々からは、日本とは違った豊かさがあること、それを先進国のわれわれが脅かしている実態を教えられます。ぜひ現地の暮らしを体験したいと思っています。

Q2.一番聴いている音楽アーティストは?

ビートルズの(おじさん)コピーバンドをやっていますので、必然的によく聞きます。必ずしもビートルズというわけではありませんが、ノーベル文学賞を受賞したボブ・ディランをはじめ、1960-70年代の反戦平和、性や人種の共生という社会的メッセージを込めた音楽に惹かれ、授業でも学生に紹介しています。


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