「自由主義」「保護主義」逆転時代の米中関係
かつての世界では、関税が国家収入の中心だった
日本が江戸時代末期、欧米諸国と通商条約を結んだときに「関税自主権がなかった」という話は小学校で習います。ただ、この深い意味を知るのは、大分大きくなってからのことでしょう。
まず、今でこそ所得税・法人税は国家収入の中心ですが、100年ちょっと前まで世界の趨勢は関税こそが主要な財源でした。広く薄く国民全体から税を徴収するより、関所を国家が勝手に設けて、国境線を通過する人々に荷物の量に合わせた通行料を要求するほうが簡単です。しかし、通行料が高すぎると自由な往来を妨げ、ビジネスのチャンスを失います。よって、長期的には、関税は徐々に税の主役から脇役となってきました。
戦後低関税化の流れはトランプ大統領で崩壊
次に、この関税を操作してブロック経済圏を作り、その結果第二次世界大戦を招いてしまった反省に基づき、第二次世界大戦以降の歴史は、関税をできる限り低くすることが至上命題とされました。アメリカが関税貿易一般協定を主導し、世界貿易機関を設立したのも、それが理由です。
しかし、ドナルド・トランプが米国大統領になったことによって、これが崩れ始めました。自国の製品に自信があれば、関税などなくとも商品は売れます。つまり、トランプ大統領が掲げる「自国第一主義」は、実はアメリカ経済の国際競争力が次第に弱くなっていることを表しているのです。
隙をついて、中国が国際社会にアピール
そこに間髪入れず、「中国は自由貿易を牽引していく」と国際社会にアピールしたのが、中国の習近平国家主席でした。ここでは、中国が本当に国際ルールに則った自由貿易を行っているかどうかという事実よりも、アメリカが自国のことにしか興味がないと宣伝して、中国の評判を国際社会にアピールすることに意義があるのです。
アメリカの「自由主義」と、中国の「保護主義」とが本当に逆転しているのか、その現実と主張合戦をめぐる二国間関係を検証するのが私の研究です。日本から見ると、アメリカの経済規模は日本の4倍、中国のそれは3倍です(冷戦が終わったとき、前者は1.8倍に迫り、後者は5分の1位でした。30年でこのような状態ですから、これを読む高校生たちが大人になる頃、世界はさらに異なる鳥瞰図となっていることでしょう。)つまり、日本は自分より図体の大きい国同士に挟まれていますが、彼らがその図体をどのように友好的に、または敵対的に使う意思があるかを見定める必要があります。2020年に入って話題となった新型コロナウイルスでも、その起源、対処方法、その後の経済政策等をめぐって、米中間で激しいやり取りが今まさに展開されています。
「「自由主義」・「保護主義」逆転時代の米中関係-米中戦略経済対話に焦点を当てて」
◆Twitter(伊藤剛ゼミナール18期):
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戦争論
カール・フォン・クラウゼヴィッツ(中公文庫)
最後に、国際関係の古典を一冊。この分野の古典と言えば、大体20世紀以降のものか、古代ヨーロッパを取り上げるものが多いですが、あえて近代のヨーロッパ時代のものを取り上げます。
この『戦争論』は、タイトルの戦争だけを論じたものではありません。19世紀初め、プロイセン王国の将校であった著者が、当時のヨーロッパ国際政治を概観し、「戦争は政治の延長である」ことの意義や、戦争に勝利するには「国民からの支持」が肝要であることを論じたものです。新型コロナウイルスのような危機に際してよく「強い政府」が待望されますが、強靭さは一部の人に委ねるものでなく、国民一人一人が作っているものだと、200年前の古典は教えています。