園芸というと、花や野菜の栽培や品種改良を行うなどを想像する人が多いと思います。園芸科学という学問になると、「生産」に関する研究だけではなく、「園芸」が人々に与える効果なども研究対象です。
都市では「都市農園」が最近増えてきています。空き地やビル屋上に畑を作り、野菜などを育てます。趣味としての活用や、ストレス緩和など、栽培する行為自体が注目されているのです。
森林浴ならぬ「公園浴」で健康増進
私は、身近な緑地を積極的に活用する、森林浴ならぬ「公園浴」を提唱しています。20~30代の女性に芝生に設置した椅子に5分間座ってもらい、血圧とストレスホルモンの指標としてよく使われる「唾液アミラーゼ」を調べました。その結果、血圧の高めの人は低く、高めの人は低くなり、その人の状態に応じて正常値に近づくこと、唾液アミラーゼからはストレスが低下していることがわかりました。
また、心身の健康を目的として花や野菜を栽培する「園芸療法」や、地域の高齢者の健康維持を目的として「園芸福祉」を追求しています。これらの研究から園芸を用いて、医療関係者だけではなく地域住民全体で、人々の健康を目指す「地域ケア」を提唱しています。
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「8.食・農・動植物」の「26.植物科学、育種・作物・園芸」
一般的な傾向は?
●主な業種は→公務員、造園業者、花卉業者、高齢者施設
●主な職種は→造園職、商品開発、ケアマネージャー
●業務の特徴は→緑と人の健康を結びつける業務内容であること
分野はどう活かされる?
緑を活用した高齢者へのケアなど、学際分野を学んだ学生であることから、緑に関する分野だけでなく福祉的な職場での採用もみられます。
千葉大学は日本で唯一、「園芸学部」がある大学です。その中でも、人の健康と緑について学ぶことが出来る「環境健康学プログラム」は他大学にはありません。カリキュラムも植物に関する科目だけでなく、精神医学や、地域看護、高齢者介護論など、予防医学や地域ケアに必要な科目が同時に学べる点が他の農学系とは異なる大きな特徴です。
園芸療法やアロマセラピー、森林療法など、植物との関わりによって心と体が健康になることがこれまでの研究でわかってきました。植物を使って人の健康に役立てることが出来るのです。新しい「園芸科学」という分野は、「環境+健康」について学べるので、植物が大好きで農学系に進みたいけど、医学系にも興味があると悩んでいる人にぴったりな分野だと思います。
・体育館での運動と、自然公園の中での運動を比較し、疲労感などの心理的効果の違いを検討してみましょう
・花や野菜を栽培して、種から、収穫までの期間での心の変化を記録し、園芸作業による心理的効果を検討してみましょう
NHKテキスト「趣味の園芸」連載『心と体にやさしい園芸療法』2020年4月号~2021年3月号
岩崎寛(NHK出版)
園芸療法が何故、心と体に良いのかについて、実験結果(エビデンス)を元に、わかりやすく解説しています。庭での園芸から、公園における社会園芸、ハーブの効果など、身近な題材を取り上げ、写真やイラストなどで説明しています。
(「趣味の園芸」サイトでの岩崎先生の記事はこちら)
植物の不思議な力=フィトンチッド 微生物を殺す樹木の謎をさぐる
B.P.トーキン、神山恵三(講談社ブルーバックス)
フィトンチッドとは、微生物の活動を抑制する作用を持ち、樹木などが発散する化学物質のこと。植物が傷つけられた際に放出し、殺菌力を持つ揮発性物質のことをいう。森林浴はこれに接して健康を維持する方法として知られている。この本は、植物がなぜ癒し効果があるのかを、簡単な実験から説明してあり、フィトンチッドが基礎的な部分やその歴史から学べる。
(本書を紹介する岩崎先生の記事はこちらも)