地球温暖化ガスの一つであるフロンガスは、二酸化炭素に比べても非常に高い温室効果を示すことがわかっています。またフロンガスによるオゾン層破壊は、人の健康や生態系にも深刻な被害を及ぼします。
フロンガスは1928年に初めて作られた化学物質です。身近な製品としてスプレー缶、冷蔵庫やエアコンの冷媒、さらにはICチップなどの精密部品を洗うのに用いられるなど、幅広く使われてきました。1970年代、モントリオール議定書をはじめ様々な国際協定・法律によって、先進国を中心にその使用には大幅な制限がかけられましたが、完全な廃止はまだ実現できていません。
医薬品や合成樹脂などの有用化合物へ
私は有機合成化学を専門として、フロンガスに必ず含まれる炭素─フッ素結合の化学変換に取り組んでいます。具体的には、金属触媒を使って穏和な条件下で炭素─フッ素結合を切断し、医薬品や合成樹脂などの有用化合物へと変換する反応を開発しています。ここで得られる化合物をもとに、さらなる化学変換によって、医農薬や機能性材料などのより価値の高い含フッ素有機化合物を作り出すことが可能です。
環境に直接影響を及ぼすフロンガスに対してもこの手法を適用することで、フロン類の有効再利用を実現し、社会に貢献することが期待できます。地球温暖化ガスであるフロンガスをなくすことは、有機合成化学の挑戦的、かつ最重要の課題と言えます。
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「17.化学・化学工学」の「68.有機化学、合成化学(薬設計の技術)」
一般的な傾向は?
●主な業種は→製造業:化学、医薬品・農薬、石油・石炭製品、ゴム製品
●主な職種は→研究職
分野はどう活かされる?
医薬の開発、農薬の開発、医療材料の開発、電子材料の開発、色素・香料の開発
筑波大学の有機合成化学の分野は、フッ素と金属の特性を合わせて活用する有機合成反応の開発に特徴があります。
高校までの有機化学では、どうしてこんな反応が起こるのか、どうしてこんなものができるのか、まったく答えてもらえなかったと思います。それを解き明かしながら、自分の仕組んだトリックやアイデア(分子設計・反応設計)で、反応や分子を自在に繰る楽しさ、思い通りに分子を組み立て作り上げていく楽しさ。それが有機合成化学の魅力です。
自分の考えたアイデアを自分で試し、その威力を自分の手で確かめられることも、有機合成化学の魅力です。有機合成化学者は、分子の世界の建築家に例えられます。ただし、実際の建築家と違って、設計者であると同時に施工者にもなれるところが、有機合成化学者の強みであり、自己完結できる喜びです。世界初の反応や世界初の化合物を手にできるのが、有機合成化学者です。