マーケティングは、顧客価値の創造と提供を通じて、顧客だけでなく、その提供企業(組織)や利害関係者(従業員、取引業者、株主、地域社会など)も満足でき、幸せになるような仕組み作りにかかわる活動です。
私は、“育てる”という視点から、祭りや神楽、人形浄瑠璃などの地域伝統芸能の担い手を育成するとともに、市場を拡大するためのマーケティングについて研究しています。祭りや地域伝統芸能は、地域コミュニティの維持、郷土愛の形成、地域活性化などにおいて重要な役割を果たすだけでなく、その担い手のコミュニケーション能力ややり抜く力、美的感覚、その地域を支えていくのに必要な能力などの育成においても重要な役割を果たしています。さらに、祭りや地域伝統芸能は、それを観る顧客に“楽しさ”や“感動”を即時的に提供するだけでなく、長期的にも彼らの感性や文化理解を高めることに貢献します。様々な祭りや伝統芸能を繰り返し観ることによって、顧客も成長することから、それらは社会として人材を育成していく仕組みと捉えることもできます。このように祭りや地域伝統芸能は社会において重要な役割を果たしていることから、今後も活発に活動できるような仕組み作りや市場拡大のための戦略を研究しています。
観光も、短期的な視点では、感動や思い出づくりを通じて満足を提供するものですが、長期的な視点では、観光経験の積み重ねは学びを促し、様々な能力や美的センスを身につけることに貢献していると考えられます。このように観光サービスの消費経験は、短期的に顧客に満足を提供するだけでなく、長期的にも彼らの成長をもたらすものであることから、どのような観光価値をどのように提供することが、さらに顧客にどのような観光行動をとってもらうことが、短期的かつ長期的に幸せをもたらすのかを明らかにすることは重要であると思い、研究を行っています。
医療サービスや教育サービスのマーケティング~便益の享受における遅延はどのような影響を及ぼすのか〜
モノやサービスを購入するのは、それ自体が欲しいからではなく、それらがもたらしてくれるニーズの充足、すなわち抱えている問題の解決を得るためです。消費によって問題が解決されるならば、便益の享受が行われたことになり、顧客は満足を形成することになります。しかし、望む便益を得るためにサービスを消費する時点と、その結果として実際に便益を享受できる時点との間に時間的ギャップが存在するサービスもあります。
私はこの時間的ギャップを説明するために「便益遅延性」という概念を創出し、このような特性を有するサービスを「便益遅延型サービス」と呼んでいます。医療サービスは病気からの回復を目的として、教育サービスは望む能力の向上を目的として消費が行われますが、そのような望ましい変化を得るためには長い時間(期間)を要することから、便益遅延性が生じていることになります。
また、サービスの便益はその提供側から一方的に提供されるものではなく、顧客も便益生成に必要とされる諸活動を自ら主体的に行わなければなりません。医療サービスの消費では、指示通りに服薬をする、機能回復のためのリハビリ活動を行うなどの活動が、教育サービスの消費では、授業に主体的に参加するだけでなく、予習・復習を適切に遂行することが必要とされます。これらの活動が顧客によって適切かつ積極的に行われなければ、望む変化を得ることができない、あるいは便益遅延性の程度が大きくなります。しかし、そのような活動を行ったとしても、その成果をすぐに得られないだけでなく、不快感を喚起しやすいことから、そのような参加行動のモチベーションは低下しやすいという傾向があります。このような特性を持つサービスの消費において、どのような要因が顧客満足の向上や参加行動を促進に影響を及ぼすのかを研究しています。この研究も、顧客の長期的な幸せを導くための研究であると思っています。
一般的な傾向は?
- ●主な業種は→サービス業やイベント企画企業、公務員
- ●主な職種は→企画や広告、営業
- ●業務の特徴は→価値物の創造と提供に関わっている
分野はどう活かされる?
マーケティングの物の見方や知識、仮説検証能力を活かして、価値物の創造や提供にかかわり、顧客の満足向上を図っています。
大学では、自らが解決すべき問題を発見することで、それを適切な問いとして設定し、その解を自ら創り出す方法を学びます。したがって、まず解決すべきであると思われる問題を発見できなければ学びは始まりません。問題の発見には感性や知覚を磨くことが必要とされますので、高校時代に、自分の周りの人々や環境を関心を持って観察することや、旅行や遊びを通じて様々な体験をすることをお薦めします。
理論と実践を両輪として、社会で活躍するのに必要な能力の育成を図っています。私の研究室では、サービスの提供が行われている現場に行き、サービス提供に関わるハード施設や従業員の活動、顧客層などの観察調査や、関係者に対するインタビュー調査(質的調査)を行っています。さらに、これらの調査の結果に基づいて仮説を構築し、それをアンケート調査(量的調査)で検証することにより、改善の方策等について明らかにしています。