弱い日本の強い円
佐々木融(日本経済新聞出版)
国力を定義して捉えようとすると忍耐と強引さを必要とするが、強い国の貨幣が強くなることは必然ではない。ドル円レートはこの40年間、趨勢的に円がドルに対して強くなってきたが、外為レートは巷で浸透している常識で説明するものではなく、外為マーケットの取引という現実そのものが動かしている。
現在は定義的に金(ゴールド)とのリンケージがない貨幣システムであるから、どの国の貨幣も宙に浮いた相対的な関係にある。難しい理論に興味を持つことも大事だが、現実感覚たっぷりの本書はおススメである。理論が現実を追い越してしまい、理論だけが「頭のいい」学者によって、半ば趣味のように、自身に都合よく構築される。これは大学の研究者が陥りやすい罠だが、中学・高校に通う方は、言葉だけの「実学」を謳う大学の広告に惑わされず、もっと現実からすくい上げる方法論を教えてくれる研究者に出逢ってほしい。
スカンジナビア諸国と日本の銀行行動を比較し、国家の持続可能性を探る
下がり続ける日本の預貸率
銀行は預金を集めてきて誰かに貸している、そう思っていませんか。残念ながら、それは間違いです。常識で物事が片付いたら研究は不要なのですが、だからこそ大学の教員は研究者として研究を進めています。文系も理系も境界線はありません。社会の基礎は会計、そして利益の概念にあります。
預金残高と貸出残高の比率を預貸率(よたいりつ)と呼んでいますが、日本はこの指標がずっと下がり続けています。「常識」では預金は集まってくるのに貸出先が減って預貸率が下がると思われていますし、銀行の不良債権がたまると、銀行機能が目詰まりを起こして預貸率が低下すると思われています。
しかし実は銀行の貸出が増加しても減少しても預貸率は変化しないのです。これは内生的貨幣供給理論という、銀行行動のメカニズムを重視する学派の理論で解くことができます。
同じ経済環境を経験しても、預貸率は逆という謎
私が現在進めている研究は、預貸率が上昇するスカンジナビア諸国と、低下する日本の比較研究です。スカンジナビア諸国と日本は、ともに1980年代後半にバブル経済と1990年代以降にバブル経済の崩壊を経験しており、ある意味で同じ経済環境を経験しましたが、その後の経済政策によって預貸率に逆の動きが見られます。不思議に思いませんか。
実は、この研究は対照的な預貸率変動の動きの要因を解くことが直接の目標ですが、もっと大きな目的ないしは意義を持っています。社会のあり方、もう少し具体的に言えば、高齢化社会に対する金融政策と財政政策の歪みを明らかにすることで、国家の持続可能性を模索するということです。
いわゆる理系の技術開発や自然環境の研究も大事ですが、それもこれも企業・家計・国家の経済活動と会計の概念が基礎ですから、大変意義深い研究なのです。これから大学を目指す中学生や高校生に、こうした社会の枠組みを考える研究にも興味を持っていただけたら幸いです。
※預貸率…銀行の預金に対する貸出金の比率を示す数値。「貸出金÷(預金+譲渡性預金)×100(%)」で計算する。
銀行は事業性を評価して融資するというよりは、特にこれまで土地などの担保をみて融資してきました。アイディアを出して事業にトライしてみようというスピリットが削がれてしまい、仕事は苦痛なもので「失敗」を回避することが優先されてしまいます。金融を深く学ぶことで企業活動の深呼吸を理解し、それによって成功した企業が次の成功企業を育てる、そしてそれが評価される社会になることが求められますが、課題の克服方法をこんなところで端的に書けたら研究は不要で、政治屋がいるだけで十分です。
「預貸率低下に対応する地方銀行経営」
◆各学年での学び方
2回生では企業会計の知識、論理学の基礎を指導し、3回生では方法論、経済学の古典と美的感覚に関わる著作を題材にして学修の幅を広げます。4回生でようやく金融学に関する分野を中心に指導しますが、学生の興味の対象を尊重して指導しています。あとは私自身のフットワークが軽いので、ゼミナール新入歓迎会では愛媛から遠く(北海道・長野・沖縄・セブ島など)に出かけています。私のゼミナールでは音楽や写真などの話題も多く、与えられた経済学だけしか勉強しないような学生は育てたくありません。
◆愛媛県の民放放送局(南海放送ラジオ)で経済トークコーナー「チカノミクス」を担当しています。
南海放送ラジオ「チカノミクス」過去放送回(近廣先生HP)
◆主な業職種
(1) 金融・保険・証券企業での経理・会計・財務など金融系専門職
(2) 官庁、自治体、公的法人、国際機関等での事業推進・企画、経営企画職
(3) 化学工業品・衣料・石油製品企業での事業推進・企画、経営企画職
◆学んだことはどう生きる?
メガバンクや信託銀行や地方銀行で銀行員として活躍する卒業生が多く、大手企業や富裕層のみならず、地方都市の小回りの利く営業で成果をあげて、みるみる昇進して行内で必要とされる人材に育っています。特に経済危機が生じた時にでも生き抜けるように、企業の生産活動に欠かせない簿記・原価計算の知識を活かし、公的金融制度との連携も取りながら、法人・個人を問わずお客様との信頼関係を築く仕事を実現しているように見えます。
愛媛大学法文学部は、良く言えば学際的でパラレルワールドを大事にする、良心的な学部です。悪く言えば寄せ集めに見えるかもしれませんが、大学なのでこの良心的な環境を自身の実にすることができるかどうかは、学生の資質によります。少なくとも私は、資格ビジネスに加担するような闇雲な指導はしません。そのかわり、私が所属するグローバル・スタディーズ履修コースでは、欧米系の言語学と文学・経済学・政治学・社会学・国際協力論・国際関係論・政策や特定の国に精通した研究者まで揃っており、多くの領域に触れることができます。
Q1.18歳に戻って大学に入るなら何を学ぶ? 振動・材料力学 |
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Q2.日本以外の国で暮らすとしたらどこ? ニュージーランド南島。景色が好きだから。 |
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Q3.大学時代の部活・サークルは? ミュージカル劇団のピアニスト |
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Q4.大学時代のアルバイトでユニークだったものは? 駅員 |
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Q5.研究以外で楽しいことは? ピアノ |