マーケティングジャーナル
日本マーケティング学会
日本最大規模のマーケティング学会の学会誌をご紹介します。「高校生に学会誌を推薦するなんて」とお思いかもしれませんが、大丈夫。中には難しくない記事もあるからです。事例紹介記事「マーケティングケース」は、モノの売り方や広告づくりに長けた企業の成功事例を紹介した取材記事で、高校生でも読んで楽しめるはずです。
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顧客ニーズに合った製品づくりを、科学の力で
既製品より魅力的なカスタム製品
皆さんはカスタム製品をご存じですか。注文製品のことです。世の中に出回っている製品の大半は、注文製品ではなく、作り置きの既製品ですよね。それは、効率的だからです。同じ物を大量に作って大量に売ると安上がりなので、顧客も喜びます。
けれど最近、カスタム製品も増えました。それは、技術開発の結果、作り置きの既製品に肉薄するほど値下がりしたからです。
技術開発といえば、日本企業の得意分野。日本が世界をリードしていました。けれど、海外企業に追い越されてしまいました。技術が先行し、顧客のニーズに寄り添う気持ちで負けていたからです。
カスタム製品は魅力的だが注文が面倒
安価で魅力的なカスタム製品を提供するという課題のほかに、もう一つ、課題があります。例えば、カスタムスニーカーを想像してください。好みの色を注文できるので、作り置きのスニーカーより魅力的かもしれません。けれど、いざ注文してみると、各パーツの色の組合せは、センスの問われる作業です。
なので「さぁ、注文してください、どんな色にでもカスタムします!」という姿勢だけでは足りません。企業はどう注文してよいかわからなくなってしまった人たちを助けなくてはなりません。注文可能な選択肢を狭めれば、カスタムの魅力度は下がりますが、選択労力が少なくて済みます。
そこで魅力度の下げ幅を小さく、選択労力の下げ幅を大きくするような選択肢の狭め方が重要です。そこに科学の力が必要です。無数のパーツやパーツの組合せを企業は市民にいかに提案するべきか…これが私の取り組んでいる研究テーマです。
前世紀は、大量生産・大量消費によって特徴づけられていました。つまり、産業革命によって、企業が効率的に製品を生産できるようになり、消費者は製品を安価で手に入れることができるので、製品はどんどん消費され、新製品が出たら買い替えられてきました。その背景には、大量に画一的な製品が供給されるシステムがあります。
一人ひとりの消費者のニーズに合致し、愛着が持てるような特別な製品を、企業が丁寧に作って提供するようなシステムが整備されれば、無駄な製品の生産と廃棄は生じにくくなるでしょう。カスタマイゼーション・システムは、そのような素晴らしい次世代型のシステムなのです。けれども、その運用には上で紹介した問題やその他の問題が立ちはだかっています。そうした問題を発見し解決していくのは、マーケティング学者の役割の一つです。
「カスタマイゼーション・システムにおけるブランド・スイッチング」
慶應義塾大学商学部の特徴ある授業といえば、研究会(ゼミ)です。どんな大学の商学部よりもゼミが活発で、慶應義塾大学商学部生はゼミを通じて飛躍的な成長を遂げることができます。私のゼミでは、学生たちが企業の様々なマーケティング課題を解決するためのアイディアを立案・実証しています。そのアイディアは論文の形にまとめられ、ビジネスプランコンテストや国際学会で発表され、多数の賞を受賞しています。
◆主な業種
(1) 商社・卸・輸入
(2) コンサルタント・学術系研究所
(3) 金融・保険・証券・ファイナンシャル
◆主な職種
(1) コンサルタント(ビジネス系等)
(2) 商品企画、マーケティング(調査)
(3) 経営者、会社役員
◆学んだことはどう生きる?
製品カスタマイゼーションを含む「マーケティング」の理念や分析能力は、ビジネスの世界の中のあらゆる場面で活用されます。新入社員が営業活動を行う時には、対面するお客さんの気持を汲み取るために、マーケティングの考え方を活用します。世の中にどんな製品やサービスが必要かを考える社長さんにも、マーケティングの考え方が不可欠です。慶應義塾大学商学部で学んだ卒業生たちは、上に挙げた業種・職種以外をも含む多種多様な場面で活躍しています。
慶應義塾大学商学部は、1890年設置の理財科を起源に持ち、1957年に正式に設立された、国内最古の商学研究機関の一つです。商学部生は、福澤諭吉の「実学」を現代に合わせて体系化すべく2020年に導入された4フィールド制で、経営学・会計学・商業学・経済産業を広く学ぶことができます。そのうちの商業学フィールドが私の所属フィールドで、そこでは、製品・価格・広告・流通等のマーケティング戦略を深く学ぶことができます。