◆先生の研究分野である「人文情報学」というのはどのような研究ですか。
歴史や文学といった、一見、コンピュータから遠そうな人文学分野について、コンピュータを適用する学問です。古文書が読めない? それならコンピュータで読めるようになるかもしれません。今までわからなかった古代史がコンピュータで見えてくるかもしれません。夏目漱石はどんな文章の癖を持っていたのか? これも、コンピュータで見えてくるかもしれません。コンピュータを使うことで、古くからある研究に新たなルートを作り出すのが、人文情報学です。
◆先生の研究は社会とどのようなつながりがありますか。
私の研究は、「人文情報学」の中の「歴史情報学」です。過去のことを知るというのは、後ろ向きなことではありません。私たちが未来を向くために、必ず必要な知識でもあり、今、なぜ私たちがこのような社会で生きているのかの理由が過去にあるのです。そのために歴史学の研究はあるのですが、その歴史学の研究には必ず証拠となる「史料」というものが存在します。その資料はどこにあるかというと、皆さんが過ごしている街の中にひょっこりあったりします。例えば、街角のちょっとした石碑や、ちょっと古そうな家、近くの博物館にそれはあります(NHKのブラタモリでもよくやっていますね)。その情報をスマホやパソコンですっと見つけて、身近に感じてもらうようなデータベースの構築をしています。
身近なところにある「過去」を知ると、私たちが生きている街の文化や、「なぜこの街はこのようなことになっているのか」がより深くわかるようになります。それで、私たちがちょっとだけ「生きやすい」社会を作れればと考えています。
◆研究の発想はどのように生まれてきたか教えてください。
私は歴史学研究の中で「ある法則」でずっとされている研究があることに気が付きました。決まった法則があるのなら、それはコンピュータでもできるはずだ、という思いのもとで進めることができました。私たち人間が「何を日ごろやっているのか」をじーっと分析することで見えてきたところがあります。
◆この分野に関心を持った高校生に、具体的なアドバイスをいただけますか。
身近な(例えば都道府県立の)博物館で、どんな情報機器が使われていて、それがどういう「歴史」の説明に使われているかを確認したりするのもいいと思います。または、文学などであれば、例えば同じ時代の文学作品(井伏鱒二vs川端康成、清少納言vs紫式部など)で文体がどのように違うのか、人間ではなくコンピュータだとどうやったら分析できそうか、推測してみてください。
昔のことのこんなことをコンピュータで分析してみたい!ということがあれば、聞きに来てください。m-goto◎rekihaku.ac.jp(◎は@に置き換えてください)か、Twitterのアカウント(@mak_goto)で一言声をかけて、日程を確認してくださいね(出張などでいないことも多いです)。その場合には、まず「自分がどの時代のことをやってみたいか」をふまえて、事前に国立歴史民俗博物館の展示をざっと見てもらうのがよいと思います。
◆高校時代は、何に熱中していましたか。
放送部でイベントの音響をずっとやっていました。かなりはまり込んで、大きな本格的なスピーカやアンプなどをくみ上げたりして、文化祭や体育祭の裏方をやっていました。
◆先生のもとで学んだ学生は、どんな仕事をされていますか。
今は研究所勤務なので、ゼミを持っていませんが、かつてゼミを持っていたころの大学院生は、いま博物館の情報関係で働いています。なかなか狭き門ではありますが、博物館の基盤を支える大事な仕事です。
デジタル・アーカイブの最前線 知識・文化・感性を消滅させないために
時実象一(講談社ブルーバックス)
人文情報の基本的なデータを作るために、多くの歴史的資料をデジタル化します。その行為を「デジタル・アーカイブ」と呼びます。昔のものを未来に伝える情報技術がこの本には詰められています。未来の技術を昔のものに使ってみたいという、新しもの好き?な人におすすめです。
データを紡いで社会につなぐ デジタルアーカイブのつくり方
渡邉英徳(講談社現代新書)
デジタルアーカイブの作り方という副題がついた本ですが、デジタルアーカイブの作り方というより、それがどのように社会とつながるのかを書いた本です。長崎・広島の原爆という歴史の記録がデジタルでどのようによみがえっているのか、その一端を見てみてください。