◆先生の研究分野である「バーチャルリアリティ」について説明してください。
バーチャルリアリティは、人がどのように現実を認識しているかを理解し、それに基づいて情報を提示してあげることで、コンピュータで作り出したバーチャルな世界をあたかも実際に体験しているかのように感じさせることができる技術です。そのために、視野全体を覆うような映像や3Dの映像などを提示したり、映像や音の他に触覚や香りなどの五感情報を組み合わせて提示し、没入感を高める技術が開発されています。また、バーチャルな世界に自分がものに触れて操作できるようにするなど、インタラクティブに情報を操作できるための技術や、リアルなCGを描いたり、シミュレーションによって現実と同じような物理現象を再現したりする技術もバーチャルリアリティの研究の一部です。
◆先生が、発展させようとしている研究やめざすものを教えてください。
バーチャルリアリティ(VR)や拡張現実感(AR)の技術と、認知科学・心理学の知見とをうまく融合させて、人間の感覚や認知、能力を増幅させるような新しいインタフェース技術の実現をめざしています。そのために、人間の知覚特性の解明から新規インタフェースの提案・開発、さらにはそれらを社会で活かすためのデザインやコンテンツの研究まで、多角的に研究を進めています。
例えば、クロスモーダル知覚(ある感覚の知覚が同時に入力された異なる感覚に対する刺激の影響で変化して知覚される錯覚現象)を利用して、多様な五感体験を簡単に提供できる技術について研究しています。例えば、食べ物の見た目と匂いを変えることで食べたときの味を変えてしまう「メタクッキー」、ARによって食品の見た目のサイズを変化させることで摂食量を変える「拡張満腹感」、ARで操作物体の見た目を変化させることで力作業の効率を約20%向上させる「拡張持久力」、視触覚相互作用を利用した空間知覚操作によって直径6mの壁の周囲を歩いていても直進しているかのように感じさせることが可能な「Unlimited Corridor」等を開発してきました。
また、感覚知覚の変化は、人間の感情や行動、発揮能力にも影響を与えます。例えば、映しだされる自分の表情を笑顔に見せることで、見た人を楽しい気分にさせる「扇情的な鏡」や、その応用として、ビデオチャット環境において対話相手を笑顔に見せることで対話中の創造性を向上させる「Smart Face」等を開発してきました。
こうしたVR・ARの研究を通じて、人間が世界や自分のことをどのように知り、感じているのかというメカニズムを明らかにして、人間に対する理解を深められるようにしたいと思っています。さらに、理解した人間の特性を応用することで、いろいろな五感を体験できるバーチャルリアリティ、感情と上手に付き合う方法、より賢く幸せに生きていくための方法などを開発することをめざしています。
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◇葛岡・雨宮・鳴海研究室 HP
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◇電ファミニコゲーマーインタビュー
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・「ある意味で人が機械に操作される」これからの、人と機械の新しいあり方
・「現実を編集する」インタフェース研究
Playroom VR
Sony Interactive Entertainment
PS VR向けのゲームで、みんなでわいわいと楽しめる作りになっています。VRの醍醐味は、実際に体験してみた際の驚きにあります。家庭用のゲーム機でそうした体験が気軽にできるようになったので、興味を持った方には是非一度体験していただきたいです。特におすすめの内容はMONSTER ESCAPEで、HMDを装着した人と、装着していない人が対戦する形式のゲームです。HMD装着者は恐竜となって街を壊し、装着していない人は恐竜を攻撃して撃退を目指します。HMDを付けた人がまるで恐竜になって暴れ回るような感覚を体験できるだけでなく、HMDをつけていない人と一緒に盛り上がって遊べるようなゲームデザインになっていて、VRを使ったエンタテインメントのあり方の1つの方向性を示す素晴らしいゲームです。
実際にVRを体験してみて、まずは夢中で遊んでみてください。そのあとで、どこが面白くて、どこが物足りなかったのか、こうするともっと面白いVRが作れるのではというところを想像してみましょう。
いずれ老いていく僕たちを100年活躍させるための先端VRガイド
廣瀬通孝(講談社星海社新書)
日本のVR研究の第一人者がVRを活用して高齢化社会をどう変えられるかを書いた本です。VRの歴史から先端技術まで、そしてその可能性や社会的インパクトについてもわかりやすく説明されていて、自分たちの未来を考える上でも役に立つ一冊です。