◆先生の研究内容について教えてください。
前職の名古屋大学の頃から、位置推定や位置情報サービスの研究を続けています。現在では愛知工業大学に移り、独立した研究室を持って愛工大学生の研究指導をしています。また、名古屋大学とも継続的に繋がりを持って研究に関わっています。
位置推定に関しては、実用性をできる限り高めるため、現状で普及しているデバイス(スマートフォンやWi-Fiアクセスポイント)を用いた行う手法を検討しています。位置情報サービスでは、ヘルスケアへの応用や、“学生が研究室に来たくなる仕組み”について研究しています。
アプリケーションやサービスを考える際、最も重視しているのが人の内発的なモチベーションに支えられた世界観です。モラル・ルール・強制といった外部からの圧力に頼るシステム(例えば歩きスマホを検出して自動的にスマホを利用不能にする機能など)は適用範囲に限界があります。そこで、ユーザが進んでそうしたくなるメリットやインセンティブ(競争心やゲーム性)を提示し、その結果として目的が解決されるようなデザインを検討しています。
(前ページで話した)磁石を回転させるマーカーは私自身とても気に入っているものです。位置を特定するための手がかりとなるランドマークを設置するという手法は様々検討されていますが、その中でも磁石を回転させるという、一見すると圧倒的にローテクに見える手法でそれを実現しているという点が独自性を高めていると思います。
◆先生は研究テーマをどのように見つけたのでしょうか。
研究テーマを考える際よくあるパターンでは、まず困難な問題を見つけ、それをどう解決するか、という順に考えます。しかし、私にとっては解決方法そのものに面白みがないと研究のモチベーションが湧いてきにくいです。そのため、私は多くの場合アイデアから入ります。まず自分が面白いと思える手段を考え出し、それを適用したら解決できる問題はなんだろうか、と考えます。もちろんアイデアが面白くてもいい適用先がなければお蔵入りです。
日々の生活すべてにおいてアンテナを張り、日常の当たり前を当たり前とは捉えず、そこに隠れている小さな便利・不便を敏感に発見し、見つけたらその便利のメタファを別のなにかに転用できないか、その不便を解消するいい方法はないか、と思考実験するのがおすすめです。
◆この分野に関心を持った高校生がより深く知るための具体的なアドバイスをお願いします。
私や研究室に興味を持たれた方はぜひご連絡ください。個別訪問も大歓迎です。事前にメール(kaji@aitech.ac.jp)にご連絡ください。
研究してみようと思ったら、身近な研究テーマとして、「スマホ利用の満足感を損なわず、かつ歩きスマホによる事故の危険性を低減させるにはどうしたらよいか」など考えてみてはいかがでしょう。
◆高校時代は、何に熱中していたか、教えてください。
小学生の頃からコンピュータに接していたこともあり、将来は情報科学分野に進みたいと考えていましたが、他の可能性も消したくはなかったのであまり勉強する分野を絞らず幅広く勉強していました。下宿しておりテレビも個人パソコンもなかったためラジオだけが楽しみでした。
◆研究室やゼミなどでの学生指導はどのようにされていますか。
学生個人のモチベーションが、研究推進にあたり最も必要と考えています。できるだけそれぞれの学生にとって面白い、やりがいがある、と思えるテーマに取り組めるよう心がけています。学生が技術・能力・知識的に成長させるために、がんばれば超えられるであろうギリギリのスケジュールを学生自身が設定し、それを乗り越えるというサイクルを回します。乗り越えたときの達成感・成功体験が次のサイクルへのモチベーションに繋がります。無謀なスケジュール調整になると、目標を達成できずモチベーションも激減するので、教員としてはそこに注意して調整しています。
ジョン・ハンケ 世界をめぐる冒険
ジョン・ハンケ(講談社)
IngressやポケモンGOを作ったナイアンティック社CEOのジョン・ハンケの自伝です。
ポケモンGOがもたらした、世界中の人を物理的に動かすという位置情報ゲームのインパクトは皆さんご存知の通りと思います。もともとジョン・ハンケはGoogle社に勤めており、自宅に居ながらにして世界中のどこへでも行けるようにするバーチャルトラベルシステム Google Earthを作った人です。ポケモンGOとは対極にあるシステムです。それを作った人が、何を考え、何を重要と感じ、今、人を動かす仕組みの可能性を信じて突き進んでいるのか。熱いプログラマの哲学は高校生の皆さんにも大いに参考になると思います。
観察の練習
菅俊一(UMABOOKS)
日常に潜むアイデアの種を発見する練習として最適です。当たり前を当たり前のまま受け入れるのではなく、そこに意識を向けてみるという行為は、どのような道を行く人にも身につけてもらいたいです。
日常をなんの疑問もなく受け入れてなんとなく過ごしている人や、授業の時間が勉強をする時間でそれ以外は頭を使わない、というタイプの人は多いと思います。私自身もそうでした。しかし、日常にも意識さえ向ければ様々な面白い事象が転がっています。この本ではそのような事象の一つ一つを、1枚の写真と少しの文章で紹介しています。常に考え続け、様々な角度から物事を捉えるトレーニングを行うと、思考の幅が一気に広がり、様々な事象に対する自身の解釈や意見を持てるようになります。
失敗から学ぶユーザインタフェース
中村聡史(技術評論社)
世の中に多く存在するユーザインタフェースの失敗例が事例豊富に紹介されており、ぱらぱらと写真を見るだけでも面白い本です。役に立つとはどういうことかという問を常に心に留めるきっかけになりました。