生態・環境

アリに守られているはずが、食べられることもあるアブラムシ~共生関係の進化を追う


市野隆雄 先生

信州大学 理学部 理学科 生物学コース

どんなことを研究していますか?

アブラムシは、甘露と呼ばれる糖分に富んだ排泄物でアリを誘います。それは、アリにアブラムシの天敵であるテントウムシなどを排除してもらうためです。この互いの利益になる相利共生関係は生物の教科書にも載るほど広く知られています。

しかし、実はアブラムシの数が増えすぎると、アリは甘露の糖分よりもタンパク質を得るために、アブラムシを捕食するようになることがあります。私たちが調べた結果、甘露をよく分泌するアブラムシにはアリの体表面物質がよくつき、これのついていないアブラムシをアリはより攻撃しやすいことがわかりました。これに対してアブラムシは、アリからの捕食を回避するために、攻撃されるとアリに甘露をうまく受け渡そうと行動することもわかりました。アブラムシとアリの相利共生関係一つをとってみても、生物間の関係の進化はひとすじなわではいきません。

共生は何億年もかけて進化してきた

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私たちは、生物間の進化について、ハチ、アリ、顕花植物などを材料に研究を行っています。アリとアブラムシや、顕花植物と花粉を運ぶ昆虫の相利共生は、何億年もかけて進化してきたものです。このような、持ちつ持たれつの生物同士の関係は、進化の過程でどのように成立し、また現在どうやって、相手の裏切りをかわしながら共生関係を保っているのでしょうか。それらを明らかにすべく研究しています。

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ボルネオ島の熱帯雨林の林床。世界で最も大型のアリ種の巣口を発見し、撮影しているところ

学生はどんなところに就職?

一般的な傾向は?
  • ●主な業種は→教育関係、研究関係、公務員、環境関係、食品・薬品関係、情報関係、農業・林業関係の企業
  • ●主な職種は→大学教員、大学研究員、大学職員、高校教員、国公立研究機関研究職員、地方自治体環境関係職員、種苗会社研究職員、システムエンジニア、薬品会社MR
  • ●業務の特徴は→生態・環境の専門知識と研究能力を活かせる業務、地域から地球規模までの様々なスケールで環境に関わる問題に広い視野からアプローチする業務、科学的論理性に基づいた思考力や判断力を活かせる業務
分野はどう活かされる?

市役所の環境保全課の職員になっている修士課程修了生がいます。彼は、就職して数年目ですが、生態・環境の専門性を活かした数々の業務をこなしています。例えば、市の「生物多様性地域戦略」の策定、140の道府県・政令市・市町村が加盟する「生物多様性自治体ネットワーク」の幹事市としての業務、「生物多様性シンポジウム」の開催などです。学生時代に行った中部山岳地域での花-昆虫共生系のフィールドワーク調査に裏づけられた素養を活かして、環境に関わる諸問題に広い視野からアプローチしています。

先生から、ひとこと

オニフスベというキノコがあります。これは日本特産のキノコで、バレーボールほどの大きさがあり、芝生や畑に一夜にして現れるので驚かれますが、珍しいものではありません。驚くのは、このキノコが生産する胞子が数兆個もある点です。もしこれらの胞子がすべて途中で死なずに子実体になるとすればどうなるでしょう。2世代後には、数個のオニフスベの子孫が地球の重さを超える数にまで増えてしまう計算になります。しかし実際にはそうはなっていません。地球上の生物は、なぜ増えすぎもせず、かといって絶滅もせず一定の数のバランスを保っているのでしょう。生態・環境分野はこのような謎に挑戦する分野です。

先生の学部・学科はどんなとこ

信州大学理学部生物学コースの特色は、なんといっても、日本で最も生物多様性が高い信州という場所だからこそできるフィールド研究です。とりわけ、理学部のある松本市には、上高地、乗鞍岳、美ヶ原といった標高差の大きい山岳エリアがあり、絶好の研究サイトになっています。それらの多くは国立公園ですが、大学として組織的に調査許可を取得しているため、研究をスムーズに進めることができます。

研究テーマとしては、700m~3000mの標高傾度に沿って生物がどのように適応進化し、種が分化しているか、さらには種の共存や共生関係がどのような機構で維持されているか、などがあります。おもな研究フィールドは中部山岳地域ですが、国内外の多様なフィールドにも学生、大学院生が遠征し、DNA解析などの分子生物学的な手法も駆使しながら研究を行っています。

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ボルネオ島の熱帯雨林観測用ツリータワーの上で

先生の研究に挑戦しよう

・相利共生関係には、だまし屋(cheater)がつきものです。例えば、花に穴を開けて盗蜜をするハチがいます。このような盗蜜者が植物の種子生産に及ぼす負の影響について調べるという研究テーマが考えられます。実は、最近の研究では、盗蜜者が植物の種子生産にプラスの効果をおよぼしている例が報告されています。他にも盗蜜者によるプラスの効果が発見できる可能性があります。

・アリとアブラムシの相利共生では、アリはアブラムシから甘露をもらう代わりに、アブラムシを天敵から守っているといわれます。このような関係は、どのような歴史を経て進化してきたのでしょうか。特定のアリの分類グループだけと共生するアブラムシの分類グループがあります。両者のDNAを解析することで、相利関係の進化の歴史を追うことができます。

興味がわいたら~先生おすすめ本

フィンチの嘴 ガラパゴスで起きている種の変貌

ジョナサン・ワイナー

ガラパゴス諸島にすむダーウィンフィンチ類という鳥を20年以上観察しつづけた米プリンストン大学のグラント夫妻の研究生活を生き生きと描いた本。「進化」が現在進行形で起きていることを明らかにするために、夫妻は大学院生らとともに1万8000羽にのぼるフィンチに足輪をつけ、個体識別を行い観察した。その結果、食物の大きさが年次間で変動すること、それに対応してフィンチ類のくちばしの長さや太さが、目に見える形で進化していることを明らかにした。科学ジャーナリストである著者の文章はわかりやすく、研究者たちの研究する日々の喜びを描いたストーリーとしても楽しめる。生物の生態や進化に興味のある人にとっては、人生を左右する1冊になりうる、インパクトのある本だ。 (樋口広芳、黒沢令子:訳/ハヤカワ・ノンフィクション文庫)


共進化の生態学 生物間相互作用が織りなす多様性

種生物学会

共進化とは、生物と生物がお互いに影響し合いながら進化すること。この本では、若手の生態学研究者たちが、共進化についてのそれぞれの研究内容を12の章にわたって紹介している。アリと植物の不思議な共生関係、植物の根と土壌微生物の間で取り交わされている想像を絶する相互作用など、驚くような生物同士の関わりが生き生きと描かれている。フィールド調査でのエピソードや研究者としての悩みや醍醐味も書かれており、高校生にとって一人称で科学を考えるきっかけになる一冊だ。 (横山潤、堂囿いくみ:編/文一総合出版)


イワナの謎を追う

石城謙吉

大学を卒業して高校教諭になった著者が、イワナの研究にのめり込んでしまい、仕事を辞めて大学院へ入学する。なぜイワナを研究することがそれほど魅力的だったのか。推理小説のようなストーリーに引き込まれて読み進むうちに、科学することの面白さ、喜び、楽しさが、ビンビン伝わってくる。生物の種とは何か、似た2種が野外で共存できるのはなぜかなど、生態・進化分野の中心課題についても、著者のイワナ研究を通じてわかりやすく紹介されている。 (岩波新書)


ジュニア版ファーブル昆虫記

ジャン・アンリ・ファーブル、奥本大三郎、見山博

高校生時代に「日本のファーブル」と呼ばれた岩田久二雄さんの『昆虫学50年』(中公新書、絶版本で入手困難)を読み、生態学の道へ進むことを決めたと、信州大学の市野隆雄先生はいう。岩田さんの多くの著作には、日本の昆虫の驚くような生態が描かれており、それを研究する岩田さんの姿にあこがれた、とのこと。一方、フランスの博物学者ファーブルは、昆虫の行動研究の先駆者であり、その研究成果をまとめた『昆虫記』はあまりにも有名だ。本書は、第1巻は「ふしぎなスカラベ」、2巻は「狩りをするハチ」、3巻は「セミの歌のひみつ」、4巻「サソリの決闘」、5巻「オトシブミのゆりかご」、6巻「ツチハンミョウのミステリー」、7巻「アリやハエのはたらき」、8巻「伝記 虫の詩人の生涯」からなる。このシリーズを読むと、身近な野外でこれほど興味深い生物の営みが行われていることに心の底から驚かされる。 (集英社)


本コーナーは、中高生と、大学での学問・研究活動との間の橋渡しになれるよう、経済産業省の大学・産学連携、および内閣府/科学技術・イノベーション推進事務局の調査事業の成果を利用し、学校法人河合塾により、企画・制作・運営されています。

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